【文献】アトピーが教えてくれたこと

書籍

著者:青山ぱふこ

出版社:イーストプレス

本書は、著者が高校3年生の時に脱ステロイドに踏み切り、その後のリバウンド、そして軽快するまでが漫画形式で書かれたエッセイです。3歳の時から、ステロイド外用剤を使用し続けていたようです。

著者は、多感な10代の高校生の頃に脱ステロイドを行ったことで、様々な困難や障害に直面します。何度も押し寄せるリバウンドの苦しみに対して、家族の協力や友人の理解、そして何よりアトピーをステロイド外用剤を用いずに乗り越えるという自身の強い信念によって、克服していきます。最終的に寛解するまでには、脱ステロイドから6年の時間が必要であったようです。

特に本書から学べることとしては、著者が免疫抑制剤であるプロトピック(タクロリムス)を顔に使用していた点です。プロトピックの添付文書によれば、「紫外線照射と並行して本剤を外用すると皮膚腫瘍の発生が早まること」が注意事項として記載されています。そのため著者は、夏でも長袖を着て、通学時にも日傘をさすなど、涙ぐましい努力をしています。

私は、ステロイド外用剤は30年程度使用してきましたが、幸いな事に顔には一度も塗った事が無かったためか、顔の皮疹は無く、プロトピックは使用する事がありませんでした。もし何かのきっかけでプロトピックを顔に使用していたら、会社に出勤し続ける事は難しかったと思います。

プロトピックは、ステロイドとは異なる機序で皮疹を抑えます。しかし、脱ステロイドを行う医師らの報告によれば、プロトピックからの離脱の方がステロイドからの離脱より容易であるとは言えない、という臨床報告があります(1)。また、ステロイドを用いないプロトピック単独による酒さ様皮膚炎も報告されており、中止後にリバウンドがみられるとされています (2)

私の読後感としては、本書は脱ステロイドに苦しみ、なおかつ周囲の理解が得られない場合に、自分の言葉で伝える代わりとなるものとして、大変有意義な一冊であると考えています。言葉ではうまく伝える事が難しい事についても、漫画であれば万人が受け入れやすいからです。

また、著者が高校生から脱ステロイドを始めた事での苦しみにまで思いを巡らせると、私自身も胸が締め付けられるように感じます。多感な時期に大きな苦しみを味わうことになりますが、著者は最後の章で、「アトピーを通じて「自分らしさ」を取り戻す事ができた」とポジティブな点もあったとまとめています。ただ私が思うのは、「もし仮にステロイド外用剤を一度も使用せずにここまで来ていたら、どうだっただろうか?」という事です。

人生に if は無いため推測でしかありませんが、最初に少し湿疹ができた際に、ステロイド外用剤という選択肢が無ければ、もっと早い段階で生活改善などの根本治療によって、早期寛解に持ち込めたのではないでしょうか。皮膚科医が、「ステロイド外用剤は一時的には皮疹を改善させるが、根本治療ではない」と最初から明示していれば、著者は最初から使用したでしょうか?

少なくとも私の場合は、人生の早い段階で上記の言葉を皮膚科医から教えられていれば、もっと早く脱ステロイドに取り組んだでしょう。その意味で、ステロイド外用剤の負の側面を積極的に開示しない現在の診療は、とても罪深いと考えています。

(1) 「患者に学んだ成人型アトピー治療 難治化アトピー性皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法」 佐藤健二(著)

患者に学んだ成人型アトピー治療―難治化アトピー皮膚炎の脱ステロイド・脱保湿療法

(2) 「タクロリムス軟膏連続塗布により発症した酒さ様皮膚炎」皮臨(0018-1404)46巻6号 Page 901-905

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